RESEARCH

Recent Activities

最近の上田研究室の研究成果、及び現在進行中の研究

1. NaTi3+Si2O6の新奇な相転移における軌道秩序

2. 高圧下での超伝導〜β-バナジウムブロンズ

3. ペロブスカイトMn酸化物におけるAサイトのランダムネス効果

 

Overview

無機固体化学(Inorganic Solid State Chemistry).特に「新奇な物性を示す無機化合物の探索,合成を行い,結晶構造との関連からその物性を評価すること」に主眼を置いている

上田寛研究室は,東大物性研物質設計評価施設の中で無機物質の合成と評価を担当している.この施設は新物性,新機能の発現が期待される物質を理論的に設計(Design)・合成(Synthesis)・評価(Characterization)するDSCサイクルのコンセプトのもと平成8年度に設立された.新しい物質の開発研究に関する研究で世界をリードしている.なお当研究室は東京大学理学系研究科化学専攻に属している. ここ数十年もの間に多くの科学技術は我々の予想を遙かに超えて進歩している.この進歩の恩恵により我々の生活は豊かになるが,その精巧で複雑なテクノロジーを支えているのは新規な物質(Material)の開発である.つまり物質化学(Material Chemistry)の研究無くして現代のような科学技術の発展はありえないし,継続的な新物質の発見と化学の発展がなければ科学技術は進歩し続けることはできない.10年程前に見つかった銅酸化物における高温超伝導はそのことを最も良く示す例である.我々の目標は,化学的な見地から,新たなそして優れた電気,磁気的性質をもつ新物質を探索,開発することである(我々の研究は基礎研究であるが,究極的にはそれらが我々の生活に反映されることを期待する). 固体化学(物理)の研究の長い歴史で常に興味の対象の中心であり,精力的に研究され続けてきたのは,d軌道に不対電子をもつ遷移金属(特にCu,V などの3d遷移金属)を含む化合物である.その理由は遷移金属化合物の構造に柔軟性がありバラエティに富み,またその結果として現れる電気,磁気的性質も多種多様で強磁性,反強磁性のような通常の磁性からよりエキゾチックなものまで見られるからである.その固体化学(物理)全般の研究は, 10年程前の高温超伝導体の発見以来新たな局面へ進もうとしている.それ以前の理論,実験の研究対象は,古典的描像の電子が独立した粒子として振る舞うような,またはそれを出発点して扱えるような系であったが,現在の最先端の研究の興味の対象は,電子が強く相互作用しているいわゆる「強相関電子系(Strongly-Correlated Electron System)」である.強相関電子系では,電荷,スピン,軌道の相関が,そして基となる格子との相互作用(多体量子効果)が本質的に重要で,そこから高温超伝導だけでなく,金属-絶縁体転移,巨大磁気抵抗などの様々なエキゾチックな量子現象が出現する.その研究は実用面への期待だけではなく純粋に物理的,化学的な興味からも非常に注目されている.



我々のグループでは上記の遷移金属化合物を中心に化学的な立場から新物質(群)の探索,合成,単結晶育成,結晶構造の決定,電気,磁気的性質の評価を行っている.合成には,通常の固相反応法からゾル-ゲル法,アーク溶解などの他に新しい合成方法を探索している.その際,温度,圧力,酸素雰囲気,反応経路などに細心の注意を払い,“物理屋”には得られないような良質な試料を得ることを心がけている.単結晶育成は,例えば化学輸送法, FZ法,引き上げ法などの方法により行っている(合成装置写真).X線回折,TG,DTA,SEM,TEMなどの装置により試料(組成)の評価,相平衡,構造解析を行い,帯磁率測定,電気抵抗測定,比熱測定などにより相転移,電気的,磁気的性質について調べる(測定装置写真).理論や他の特殊な実験については物性研を中心として国内外の研究グループと幅広く共同研究を行っている.物性研内では中性子散乱測定(藤井研,加倉井研,吉沢研),NMR測定(瀧川研),強磁場磁化測定(後藤研),超高圧合成(八木研)など多くのグループと密接に協力しながら研究を進めている