A orbital order in the novel phase transition of NaTi3+Si2O6

NaTi3+Si2O6の新奇な相転移における、軌道秩序

 

NaTiSi2O6はPyroxene(パイロキシン)と呼ばれる鉱物の1種です。 この物質の結晶構造はチタン(Ti)の周りに6つの酸素が配位した八 面体TiO6が、エッジを共有して、c軸方向に1次元鎖を形成しています。鎖間は、SiO4四面体を介して3次元的になっており、そのすき間 にナトリウムイオンが位置しています。
 その結晶構造の特徴は
・S=1/2(Ti3+)の1次元スピン系とみなせること
・結晶学的なチタン(Ti)サイトが1つであること
・チタン(Ti3+)の一次元鎖が一様である
ということです。

 

帯磁率の結果から、約210 Kに相転移を示し、相転移以下の温度変 化は、スピンギャップ的な振る舞いを示します。また粉末X線回折の温度変化より、帯磁率の変化に対応して、構造相転移を示すことがわかりま した。 1次元的な結晶構造から、この相転移はスピン・パイエルス転移でない かと思われましたが、転移点以上の帯磁率は、S = 1/21次元反強磁性 Heisenberg型の理論曲線(Bnnor-Fisher)と合わず、また低温粉末X線 回折実験においても、相転移に伴う粉末回折パターンが大きく変化しており、通常のスピン・パイエルス転移とは異なると考えられました。

チタンイオン(Ti3+)の周りには6つの酸素が八面体的に配位しており、5重縮退している3d軌道のうち、t2g軌道が安定化しています。さらに ・チタン(Ti3+)サイト上に2回軸の対称性があり、t2g軌道のうちdxyとdyzが縮退していること ・Ti-O間距離の異方性からこの縮退した軌道が安定であること がわかります。 従って、室温でのTiの3d電子軌道は、dxyとdyzが縮退した軌道である ことがわかります。
構造相転移に伴って、チタン(Ti)サイト上にある2回軸の対称性が、低温構造では消失しています。これに伴ってTiの3d電子軌道の縮退 が解けます。  低温構造解析結果から、Ti−O間距離より、3d電子軌道としてdxy軌道が安定化していると考えられます。dxy軌道が安定化した結果、Ti間の交換相互作用の交替化が起こります。  室温で縮退していた軌道が、構造相転移に伴い、縮退を解き、低温相では、磁気的に、スピンシングレット状態となっていると考えられます。